ストレスチェックは実施することも大切ですが、実施後の結果をもとにどのような対策を構築するのかが大切になってきます。義務化されているものに対して「実施することに意義がある」とばかりにやりっ放しならないように、ストレスチェック実施後の結果の取り扱いについて考えていきましょう。

「高ストレス」よりも「うつ病」が問題に?!

ストレスチェックは義務化されている、つまり、法令遵守だけを考えるのであれば、ストレスチェックの運用はそれほど難しいものではないと言えるでしょう。しかし、職場環境の整備など実施後の施策や対策を真剣に捉えるのであれば、企業で最も重要視されるのは「高ストレス」と診断された社員ではなく「うつ病」になってしまう社員です。

ストレスチェック制度が義務化されるずっと前から、「うつ病」は大きく取り上げられるトピックのひとつでした。「うつ病」といっても業種、立場などによって、ストレスチェック後に実施すべき対策や仕組みは変わってきます。メンタル失調予防、離職予防などもその中のひとつです。

なぜストレスチェックが義務化に?

そもそもなぜ「ストレスチェック」が義務化されたのか、その背景について知っておきましょう。日本は年間の自殺者が、近年では若干減少しつつも1998年~2010年のあいだには毎年3万人超、2014年には25,000人を超える数を記録しています。その自殺の原因として占める割合が多いのが精神疾患です。近年では、精神疾患を抱える人の数が大幅に増加している傾向にあります。

大きな社会問題に発展している以上、国として対策を講じないわけにはいきません。その対策として掲げられたのが、企業における従業員のメンタルヘルス管理です。ストレスチェックの目的のひとつは、自殺者や精神疾患にかかる人の削減になるというわけなのです。

「高ストレス」と「うつ病」は別物!

ストレスチェック導入までの背景があるからこそ、ストレスチェックの目的は精神病患者を発見することと思われがちです。しかし、実際は違います。ここで「高ストレス」と「うつ病」との違いをしっかりと把握しておきましょう。

確かに「高ストレス」と診断された人が、うつ病を発症するリスクは高いと言われています。健康な状態の人と比較してみると、「高ストレス」と診断されると、1~2年以内のうつ病発症リスクは、約3倍と言われています。つまり、高ストレス者は、うつ病予備軍ということになるのです。

しかし、あくまでの予備軍です。高ストレス者と診断された段階で、その後のメンタルケアをしっかりと実施することで、精神疾患の予防に繋がります。これが、ストレスチェックの真の目的と言えるのです。

ストレスチェックにより見えてくるもの

ストレスチェックには「結果」が出るということで、職場環境の改善に対する対策が立てやすくなります。ストレスは目に見えないものなので、雰囲気や、なんとなくで、ストレスが多そうな環境と判断しがちというのがこれまでの企業や社会認識だったのではないでしょうか。しかし、数値や結果が明白に見えることで、実態の把握が可能になります。結果を比較し、分析することで、やるべきことは何かということがはっきりとわかるのです。

結果で現状をしっかりと受け止め、分析することで対策を練り、施策を考え実行、運用していく、そして企業の環境改善に大きく役立つ、これこそが、ストレスチェック本来の目的というわけです。

メンタルなもの、見えにくいものということで、今まで曖昧にしてきた部分があるのは明らかです。ストレスチェックの義務化をきっかけにその目的を正しく理解すること、認識してみてはいかがでしょうか。ストレスチェックは、労力だけではなく、費用もかかります。時間もお金も無駄にしないように、そして、会社に利益をもたらすように、担当者レベルだけではなく、会社に関わる全ての人で考えていくという姿勢が求められます。

デリケートな問題!ストレスチェックの結果は誰に通知される?

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ストレスチェックの結果の取り扱いには十分に注意しなければなりません。会社での実施であれば、会社に結果が知られてしまう、何か問題があったとしたら・・・などとネガティブに考えてしまう人も多いのが現状でしょう。ストレスチェック制度の検査結果については、厚生労働省による「改正労働衛生法に基づくストレスチェック制度について」に記載されています。

検査結果は、検査を実施した医師または保健師から“直接”本人に通知されることが前提となっています。つまり、本人の同意なしには、事業者に結果が通知されることはありません。“禁止”という強い言葉が記載されています。結果の通知に同意しなかった場合には、会社にその内容を知られることがないのです。

しかし、結果を通知しないということは、企業にとっては現状を把握するという目的を果たすための材料が提供されないという結果をもたらします。つまり、結果に対して対策が企業としての対策が必要な場合でも、結果を知らされなければわからないという残念な結果に終わってしまうこともあるのです。しかし、ここは、会社に知られたくない、知らせたくないという受診者の希望が優先となります。

高ストレス状態と診断されたら?

実際に自分が「高ストレス」と判定されたら、どのような対応をすればいいのでしょうか。まずは、結果を受け止めることが大切です。そして、自分にとって最善の方法は何か?と冷静に判断することも求められます。「高ストレス」と判断されている時点で、自分にとって一番いい解決法を選ぶことができるのかという不安もあるかもしれません。そんなときには一人で判断しないことが大切です。

「高ストレス」の原因となっているものを見つけ、改善することで、「うつ病」などの発症を防ぐことができます。その方法のひとつとしては、会社を通して、医師の面接指導を受けるということです。「会社にこんなことを言ってしまったら立場が・・・」「ストレスがあるとわかったら居づらくなるのでは・・・」などといろいろ考えてしまいがちですが、安心して欲しいのは、面接指導の申出などを理由に不利益な取り扱いは禁止されているということです。

申出をするということはなかなか勇気を要することであるかもしれません。しかし、就業上の措置などを受けることで、現状が打破でき、よりよい職場環境の中で仕事をすることで、会社の売上に貢献できることに繋がれば、ストレスチェックの本当の意味を達成したことになります。自分のためだけではなく、会社のためにも役立つことなら、勇気を出して一歩踏み出せるのではないでしょうか。何より、ストレスを抱えたままでの就業は、心にも体にも健全ではありません。

それでもやっぱり結果を知られるのはイヤ!

制度的に守られていると頭では理解していても、結果を会社に知らせることに後ろ向きになってしまうという人は多いかもしれません。確かに「高ストレス」と診断される環境を現在作ってしまっている会社というのは、信用できない部分がないとも言えません。しかし、会社に対して結果の申出をしなかった場合には、自分で対処するということも検討しなければいけません。

「高ストレス」と診断された以上、現状維持が好ましいとは思えません。会社側に結果を伝えずに、自分で対処する場合には、まずはストレスを軽減する方法を見出しましょう。会社の環境が変わらないのであれば、ストレスの原因となっているものをしっかりと特定しい、最善の方法で対処することをおすすめします。高ストレスは決していい状態ではないことは理解しておきましょう。

ストレスチェックは、今まで自分では気付かなかったストレスの発見にもつながります。また、これを機会に、勤務先に対しての信頼関係を見直す機会にもなるのではないでしょうか。良い環境で、良い精神状態で働きたいものですよね。

(編集:創業手帳編集部 / 監修:合同会社パラゴン|櫻澤博文