2015年12月より開始された「ストレスチェックの義務化」ですが、文字を見るだけでもストレスが溜まるような、なんだか堅苦しいイメージを受けている人が多いのではないでしょうか?義務?実施しないと罰則がある?などという不安を取り除くために、ストレスチェック制度の施行により生じる企業の義務、やるべきことについてまとめてみました。

ストレスチェック義務化の特徴

定期健康診断を思い浮かべてみましょう。健康診断の目的は労働者の健康状態の把握です。事業者が従業員の個人結果(病気)を把握することで、適切な業務量、内容を考える必要がありました。なので、従業員の同意という点はあまり関係がなかったのです。

しかし、フィジカルではなくメンタルの診断となる、新制度のストレスチェックの目的は、高ストレス者を発見すること、従業員自身でストレスに気づくことであり、一次予防としての位置づけになります。つまり、「従業員の同意なし」では、その結果は事業者に通知されることはありません。

会社に取り入れる制度として義務化されているにも関わらず、企業側が把握出来ない部分がある、これは、従業員個人への配慮を盛り込んだからなのです。高ストレス者を発見することができても、人事では社員を把握できないというケースもあるということです。

人事担当の最大の使命はストレスチェックをスムーズに運用すること

現在、罰則規定などは存在していません。しかし、義務化である以上、将来発生するカノ性がある罰則規定も視野に入れまずは、ストレスチェックをスムーズに運用すること、これが人事担当の当面のそして最大の使命だと言えるでしょう。

ストレスチェックのそもそもの目的を考えてみましょう。最終的には、企業の生産性の向上です。そのためには、働きやすい職場環境を作ること、生産性を低下させている要素を排除することが必要になります。まずは、現状を把握し、組織分析をする、そして各部署へのアクションを起こしていくという、極めてシンプルな構造なのです。

ストレスチェックの義務化という響きがなんだかとても難しく、複雑なイメージを与えがちですが、義務化への対応はそれほど難しいことではありません。健康診断後の事後措置、過重労働対策の運用がしっかりと社内に浸透している企業にとっては、違いは「個人への配慮」と「集団的分析」だけなのです。しかし、逆に言えば、今まで健康診断後の措置・対策を疎かにしていた企業にとっては、とても複雑で大変なことのように見えるのではないでしょうか。

ストレスチェック義務化で人事労務担当者に求められること

ストレスチェックの義務化で様々な対応を迫られる事業者ですが、制度の実行・運用の中心となる人事労務担当者が押さえておくべきポイントを3つにまとめてみました。

  1. 内部規定の策定と社内実施体制の整備

まずはじめに、内部規定の策定です。ストレスチェックをどのように実施していくのか、そして、ストレスチェックに関する情報をどのように取り扱っていくのか、社内で検討を重ねていくことが求められます。

労働基準監督署への報告、資料作成の準備は早めに取り掛かるようにしましょう。厚生労働省令、指針に照らし合わせて、「ストレスチェックに関する規程」が適切かどうかをチェクしていく形がおすすめです。

人事労務が中心となって実施していくことですが、社内の構造に関わることなので、他の部署や経営陣からの調整がはいる可能性は十分にあります。どんなケースにも余裕を持って調整ができるように、時間の配分をしっかりと考える必要があります。一般的な中小企業の場合、約3ヶ月程度の時間を要しているようです。

  1. 集団結果を分析し職場の環境改善に努める

ストレスチェックは実施して「はい、終了」が目的ではありません。ストレスチェックの結果に基づいて、各職場、部署において業務の改善方法、フローなどの検討を重ねていきます。

ストレスチェックにおいては、集団的分析が最も重要な目的ということもできます。「集団」に意味があります。分析の際には、10名以上の「集団」にすることがポイントとなります。例えば10人未満の部署の場合には、各支店を統合して10名以上の「集団」として分析対象とするという工夫が必要になります。

分析の結果を受けて、人事担当者はメンタルヘルス対策、過重労働対策、管理職研修の必要性も考えることが望まれます。

  1. 相談対応窓口の設置

ストレスチェックの実施者の調整と同時に、相談対応窓口の設置が必要になります。最初はやるべきことがたくさんあります。医師による面接指導の準備を自分たちで探すことも可能ですが、不明な点がある場合、もしくは、今までに健康診断後の対策などについても正直あまり十分なことを行ってこなかったという場合には、外部実施機関を利用するというのもひとつの方法です。

ストレスチェックの費用は誰が負担?

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人事担当者や企業側でやるべきこと、準備すべきことなどがたくさんある「ストレスチェック制度の義務化ですが、制度を導入することで、最終的には企業の生産性のアップが期待できるわけですが、導入に関する費用負担が気になるという担当者もいると思います。

結論から言うと、費用は事業者負担になります。しかし、50人未満の事業所で実施される場合には、助成金がつきます。金額は1労働者につき上限500円となっています。

ネットで検索していると、ストレスチェックサービスの実施は1人数百円程度という記載が見つかります。しかしこれは、ストレス問診のテストそして、集計だけを行うものとして見なければなりません。ストレスチェックの実施ができるのは「医師・保健師等」、つまりスキルを持った人ということになります。提携医療機関の医師によるストレスチェックの実施で、記入・捺印まで行うサービスなど内容は様々です。しっかりと費用に見合うサービスを探すのも、人事担当者の大切な役割です。

ストレスチェックは従業員50名以上の事業所に義務付けられています。つまり、50名未満の事業所では、“努力義務”という位置づけになり、実施しなければならないというわけではありません。しかし、事業拡大が見込まれる場合、また翌年度に社員増加予定があるというケースでは、ストレスチェックの実施を取り入れておくのも企業の体制としては望まれる形ではないでしょうか。

ストレスチェックの気になる中身とは?

ストレスチェックの目的、特徴、取り入れ方、運用の仕方などに目を向けてばかりですが、ストレスチェックを受ける側としては、どのような質問がされるのか?という点も気になるところです。質問票のガイドラインが厚生省で提示されていますが、次のカテゴリへの質問が行われます。

  1. あたなの仕事について
  2. 体調について
  3. 対人関係について
  4. 満足度について

それぞれのカテゴリにシンプルで短めの質問事項が記載されています。これらに対して、「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」や、「非常に」「かなり」「多少」「全くない」もしくは「満足」「まあ満足」「やや不満足」「不満足」などの4択で回答していきます。今の自分のストレス状態を知ることが目的なので、深く考えずに、サクサクと答えていくことをおすすめします。

人事担当者は、ストレスチェックを受ける側にも、そして実施する会社側つまり経営陣や管理監督者への説明が求められます。しっかりと理解しておかないと説明するのも難しいものです。難しい言葉ではなく、簡単で分かりやすく、そして「ストレスチェックの義務化」に対してネガティブなイメージを持たないように説明するという大切なミッションをしっかりと果たしていきましょう。

(編集:創業手帳編集部 / 監修:合同会社パラゴン|櫻澤博文