2014年6月25日に労働安全衛生法の一部が改正され、新たに導入された「ストレスチェック制度」とはどんなものでしょうか?労働者が50人以上いる事業所では、2015年12月から2016年11月30日までの間に、1回目のストレスチェックを行わなければいけません。

今回は、ストレスチェック制度の概要をまとめました。

何故ストレスチェック制度が必要なのか

ストレスは、自分自身も気が付かないうちに蓄積されることがあります。ストレスの原因がわからないまま、自分の心身の状態に気が付かず日々を積み重ねていると、気が付いたら「うつ」などの深刻な状況になることも。そうなってからでは遅いのです。

50人以上の労働者を抱えていると、どうしても1人ひとりに目が行き届かなくなる懸念があります。もしかしたら、心理的ストレスがあるのに無理をしながら働いている社員がいるかもしれません。事業者は、職場にいるすべての労働者が、どのくらい負担やストレスを感じているかを把握する必要があります。

ストレスチェックとは

そこで、定期的に労働者のストレス状況について検査を行う「ストレスチェック制度」が導入されました。ストレスに関する質問票に労働者が記入することで、自分のストレスがどんな状況なのか気づいてもらいます。

「うつ」などのメンタルヘルス不調を事前に防ぐことが目的で、場合によっては、労働者の負担を減らすために仕事を軽減することもあります。さらに、ストレスが高いと判断され、労働者から申し出があった場合、医師による面接指導を受けてアドバイスしてもらいます。

高ストレスかどうかの判断基準は、自覚症状が高いのはもちろんのこと、ある程度は自覚症状があること、ストレスの原因やまわりのサポート状況が好ましくないこと、があげられます。面接指導の結果次第では、労働時間の短縮や仕事の軽減などの措置をとることも想定しておいてください。

ストレスチェック制度の注意点

そして、労働者に対して以下のような扱いをすることは法律上禁止されています。

  • 労働者がストレスチェックを受けないことや事業者へのストレスチェックの結果提供に同意しないことを理由に不利益な取り扱いを行うこと
  • 面接指導の申し出を理由に不利益な取り扱いを行うこと
  • 面接指導の結果を理由とした解雇、退職勧奨、不当な配転や職位変更などを行うこと

当たり前のことではありますが、きちんと頭に入れておきましょう。

ストレスを測る質問票について

では、ストレスチェックは、どの様にして行うのでしょうか?
まず、調査票を使用して、ストレスの度合いを測ります。どんな調査票を用いるかは事業者に委ねられていますが、国が推奨する予定の調査票「職業性ストレス簡易調査票」が最適です。ITシステムを活用して、オンラインでも実施できるので、使いやすい方を選択することが重要です。

57項目ある質問項目は、「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3つに分けられています。社員が回答し、その結果が出たら、実施者が直接本人に通知します。以下のように、ストレスプロフィールや評価結果、セルフケアのためのアドバイスが書かれているでしょう。

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ストレスチェックのメリット

このストレスチェックは、事業者にとっても、とても有意義なものになるはずです。労働者1人ひとりの検査結果を部・課・グループなど集団ごとに統計・分析することで、職場におけるストレス要因が明らかになります。

それによって早い段階で労働者のストレスに対処することができ、職場環境の改善につなげることができるのです。ただし、集団規模が10人未満の場合は、個人特定されるおそれがありますので、10人以上の集団を集計対象とすること。

そして、面接指導を実施した医師から、就業上の措置の必要性について意見を聞くことができるのも、大いに参考になるでしょう。面接指導の結果は、事業所で5年間保存するので、振り返って何度も確認することもできます。

ストレスチェックの流れ

いざストレスチェック制度を導入することになったら、どんな流れで進めたら良いのでしょうか。

  1. 会社方針を決定し、実施方針及び社内ルールを作成する
  2. 事業所の衛生委員会で審議 情報の取り扱い・結果の保存方法の検討、結果の利用目的や利用方法などを明確化、情報の取り扱いに関する苦情の処理や対応方法などさまざまな場面での不利益な取り扱い防止のための対策を検討し、社内規定の明文化
  3. 役割分担を決定 制度全体の担当者、ストレスチェックの実施者、ストレスチェックの実施事務従事者・面接指導を担当する医師
  4. 派遣社員を含む全社員対象にストレスェックを実施、その際労働者にストレスチェックの目的や実施体制、実施方法などの情報提供を行う
  5. 結果次第では、高いストレス者から申し出があったら医師面談を実施する 
  6. 診断結果によっては就業上の措置を取る
  7. 職場分析を行い職場環境の改善を図る(努力義務)
  8. 上記結果を遅滞することなく、労働基準監督省に報告する

この1~7の流れを、毎年実施します。

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(出典:こころの耳)

質問票の注意点について

ただし、このストレスチェック質問票には、いくつか注意点があるので、気を付けてください。例えば、「仕事の負担」という項目です。

「一生懸命働かなければならない」という項目に、「そうだ」「まあそうだ」と答えたら、望ましくない職場とマイナスイメージを持っていると判断される可能性があるのです。一方、向上心がなくダラダラ仕事をしている労働者は、「そう思わない」と答えて、問題なしと判断されることもあり得るでしょう。

また、「勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない」「高度な知識や技術が必要なむずかしい仕事だ」という項目もあります。この項目で、仕事を頑張っている真面目な労働者ほど、「そうだ」「まあそうだ」と答える確率は高いでしょう。そして、そう答えるが故に、高ストレス者と判断されてしまうことがあるのです。

つまり、労働者の心身の状態と異なる結果が出ることもあるのです。この質問票の結果を鵜呑みにすることなく、一番は労働者本人の様子を気にかけるようにすること。それによって、本人の意識と調査票結果の「ズレ」を発見できる可能性があります。

プライバシーの考慮も忘れずに

そして、労働者のプライバシーの問題も考慮してください。個人情報の漏えいは、何としてでも防がなければいけません。Aさんが会社に不満を持っているとかBさんが鬱らしいなんていう情報が会社中に流れてしまったら、大変なことになります。事業者に提供されたストレスチェック結果は、厳重に管理し、必要最小限の範囲で共有する必要があります。

以上のような注意点を踏まえた上で、ストレスチェックを行いましょう。

ストレスチェックを活用して働きやすい環境に

1年に1度ストレスチェックを行い、必要ならば医者指導を行えばそれでOKというわけではありません。このストレスチェックを活用して、労働者が働きやすい環境を作る必要があります。

いわば、ストレスチェックは、事業者と労働者の両者にとっていい環境を作り出すツールと考えてください。活用してこそ、ストレスチェックが活きるのです。

これがあれば大丈夫と甘んじるのではなく、常日頃から労働者と密なコミュニケーションをとり、相談事をしやすい風通しのいい職場環境をつくる努力を怠らないようにしましょう。

まとめ

1人ひとりの労働者がストレスを感じることなく仕事ができる環境をつくることで、会社全体の雰囲気も良くなり、仕事の効率も高まるのです。職場環境改善のためにも、大いにストレスチェックを活用してください。

この記事のポイント
  • ストレスチェック制度は、労働者が自分自身のストレスの状況に気づくことが目的
  • 事業者にとっても早めにストレスに対処できるのでメリットになる
  • ストレスチェックを活かした職場環境の改善が重要

(編集:創業手帳編集部)