いよいよ義務化となったストレスチェック制度ですが、「高ストレス者」と評価された受検者が、医師による面接受けてケアをする方向に進むのは良い傾向なのですが、中には自ら手を挙げての医師面談を希望しない受検者もいます。高ストレス者が個人的にケアをしているのであれば安心ですが、そう出なかった場合、本人にも、職場環境にもプラスになりません。企業側はどのように対応していけば良いのでしょうか。
従業員の健康管理が気になるからこそ
検査結果を職場環境改善に役立てよう!という目的もあるストレスチェックであるのにも関わらず、高ストレス者と評価を受けた人が、医師面談に手を挙げなかった場合や会社への検査結果の提供に承諾しない場合には、企業側は、誰が高ストレス者なのか把握できないままとなってしまいます。これは受検者のプライバシー保護のためです。
高ストレス者のうち、面談を希望するのは、高ストレス者と評価された人の中で0.5~5%程度と言われています。つまり大半は現状維持というより放置という状態になってしまいます。
ストレスチェック制度の主な目的は、職場環境改善と、一次予防です。高ストレス者を特定してアプローチするということは目的ではないので、面接希望がないのは問題ないのでは?と思ってしまうかもしれません。しかし、安全配慮義務もありますし、高ストレス者のストレスの原因が、職場環境にあるのであれば、少しでもその原因を減らしたいと思うものです。それこそ、ストレスチェック制度導入の目的だからです。プライバシーに配慮しつつストレスケアにもなるという夢の方法はあるのでしょうか。 あります!
社内に相談窓口がある場合
社内に産業医、保健師、看護師、カウンセラー等の産業保健スタッフが既にいて、相談窓口が設置されているのであれば、ストレスチェック制度の医師面接とは別に、直接相談できるということを受検者に周知しておきましょう。解決の選択肢がひとつしかないと放置になってしまうケースが多くあります。いくつかの出口を提示することも、“放置しない””ケアする“という企業側の良い姿勢を示すことができます。
社内で既存の相談窓口を利用する場合は、ストレスチェック制度の医師面接とは取扱いが違います。ストレスチェック制度の結果を会社に提供することとは繋がってこないので、より気楽に、安心して相談できるという点を強調することがポイントです。
社外に相談窓口を設置する
事業場内に産業保健スタッフがいない場合、または、あまり機能していない場合には、社外に相談窓口を設置する方法をおすすめします。社内の相談窓口は、形だけあって実態は月に1回程度数時間だけ嘱託産業医が職場訪問をしてくるといったようなスケジュールになっているケースが多いのも実情です。気楽に健康相談ができる体制でなければ、ストレスに問題を抱えている人にとっては、なおさら相談しにくい印象を与えてしまいます。
また、社内で相談窓口を利用していると、周囲の目も気になるという声も多く耳にします。そのような場合には、EAP(Employee Assistance Program)サービスの利用がおすすめです。電話やインターネット等を通じて気楽に、気軽に相談できる社外体制を整えることもひとつの方法です。実際に、ストレスチェック後にEAPサービスの導入をしたという企業も少なくないようです。
ただし、ここで注意が必要です。EAPサービスの質が問題になってきます。様々な会社によって運営されているためサービスの質には違いがあります。質の良いEAPサービスを提供している機関を探すために役立つのが、労働者安全福祉機構が認定する「メンタルヘルス登録機関」であるかどうかということです。選択の目安にすることをおすすめします。
でも、一般的なEAPだと、月の利用者が一人か二人なのに、月に40万も50万もかかる場合がほとんどです。そんな中、利用者が出ただけ、そして使っただけの費用負担で済むようなオンデマンド型サービス提供機関も出てきています。労働者安全福祉機構の審査を経るようなコストをかけていない分、格安でのサービスを提供していることが“売り”になっています。
産業医のフォローがポイント!
ストレスチェックの実施者が産業医である場合には、その事業場において、誰が高ストレス者なのかを把握することが可能です。その場合は、ストレスチェック以外の場面、例えば、過重労働面談、健診後のフォロー面談などを利用してのフォローを行うことができます。ストレスチェックと絡めずに、切り口を変えてのアプローチということになります。
面接の内容をしっかり周知させることも大切
面接を受けない人たちの中には、「何を訊かれるのだろう」「どんな内容なんだろう」といった心配や不安から、手を挙げられないという人もいます。ストレスチェック制度に関しては、様々なプロセスで言えることですが、「きちんとした周知」がポイントとなります。
「高ストレス」と評価されることは、何か不調がある、うつ病などの予備軍といった意味ではまったくありません。ストレスが高いことによってメンタルヘルス不調のリスクを高めているので、これを予防するという意味で、面接指導を実施しているということを知ってもらいましょう。
面接指導では、業務上のストレス、心身の健康状態を確認します。必要に応じて勤務形態に措置を施します。残業を減らしたり、配置換えをしたりなど、その方法は様々です。もちろん、その措置を行うことで、受検者に不利益を及ぼすようなことがないように、配慮されています。
もちろん、場合によっては通院、休業などを勧める場合もありますが、基本的には、健康指導などが中心になっているようです。メンタルに関する問題は、特別視されがちであると同時に、デリケートな取扱いが必要とされます。医師による面接指導のいちばんの目的は、予防にあり!ということを、受検者である従業員の方たちに、ストレスチェク制度の説明とセットで行うことが大切です。
面接では見えないこともある
ストレスチェックの結果を見て面接指導をするわけですが、面接指導の場では、受検者の普段の様子をほとんど知らない医師が、本人の言い分のみを聞き入れて、本人に取って都合のいい就業上の措置を会社に求めてしまうケースというのもないとは言えません。
例えば、病気による休業でも一定の賃金が支払われる会社であれば、あるとは思いたくないのですが、意図的に休職をしたがるという人が「いない」とはいえないケースもあると思います。少々悩ましいところですが、面接指導の場というのは、そういった結果を生み出す場合もあるということは、企業側としても考慮しなければなりません。
そのような仕組みを防ぐ方法としては、現場とストレスチェック担当窓口のような会社の担当者、プラスしてストレスチェック担当窓口産業医といった形で、普段からコミュニケーションを行い、情報交換しておくことが大切です。そのためには、時間や手間もかかるかもしれませんが、企業側が本当に、ストレスチェック制度により目的を果たしたい!と思っているのであれば、それも対策の一環として、フローに組み込みのも良いかもしれません。
ストレスチェック制度を正しく機能させる!
改めて「ストレスチェック制度」の目的を見直しましょう。ストレスチェック制度が目指している目的は、メンタルヘルス不調者の一次予防と、職場の環境改善です。ストレスチェックで、本当の解答をしなかったり、ストレスを隠してしまうようでは、本来の目的を達成するどころか、さらなるストレス、さらには不信感を生み出しかねません。そのためにも、ストレスチェックの本当の目的をしっかりと周知させる必要があるわけです。これは、担当者の大きな課題のひとつでもあります。
最初は実行することだけに振り回されてしまうかもしれません。しかし、時間とコスト、労力をかけてストレスチェック制度を取り入れるのですから、目的をしっかり果たせるような活用法を見いだしていきたいものですね。
(編集:創業手帳編集部 / 監修:合同会社パラゴン|櫻澤博文)