ストレスチェックの実施において、厚生労働省が推奨している「職業性ストレス簡易調査票」があります。項目数は全部で57、科学的根拠に基づいて作成されており、削除・追加・修正などは、科学的根拠なしに行ってはいけないことになっています。ストレスチェックの領域、項目でわかること、そしてその信頼性などについてまとめていきたいと思います。
ストレスチェック項目は1万人を超える人で実証済み!
厚生労働省が推奨するストレスチェクの項目は全部で57項目あります。構成は全部で3つ、仕事のストレス、ストレス反応、そしおて、ストレス緩和要因となっています。
ストレスチェックは研究班により様々な職種、21企業という業種を対象に、全部で12,274名で実証されたものであり、その信頼性、妥当性は確認済みです。
ちなみにストレスチェックの妥当性に使用されたのは、クロンバック(Cronbach)のα信頼性係数を用いています。内部一貫性を見るために用いられ、項目の中に不適切なものがあると場合には係数の値が下がるという仕組みになっています。「妥当」とされるのは、係数が0.8以上となったときです。
ストレス要因から分かること→過去を見る
ストレス要因とは、何か。心に影響を及ぼすような様々な刺激、ストレッサーを指します。職場でのストレス要因=ストレッサーとして挙げられるのは、職場環境、それぞれの役割上に発生する葛藤や不明確さ、そして、人間関係、相手に対する責任、仕事を管理すること、仕事の量的負荷、そして将来への不安などが挙げられます。
ベースとなるのは、「環境変化」があったもの=ストレスと考える方法です。メンタルヘルスの不調には様々な種類がありますが、共通して言えることは、「早期発見、迅速な対応」です。職場のストレス要因が背景となり発症につながると言われているので、ストレスの原因となるものは早めに突き止める必要があるのです。
ストレスの要因となるものには、職場の明るさ、温度、湿度、騒音といった物理的な職場環境、そして、長時間労働やシフト勤務なども含まれます。1万人を超える人を対象に行った研究結果により、各要因の平均値は、はじき出されています。ストレス要因から分かるものか、これまでストレスとなって蓄積されてきたもの、つまり過去の積み重ねです。
ストレス反応からわかること→現状を見る
ストレス反応とは何を指すのか。それは、「心や体に生じる変化」です。ストレス要因の影響を請けると、イライラや憂鬱な気分、頭痛といった、いわゆる急性のストレス反応が体に起きます。これを経験したことがないという人はまずいないでしょう。誰もが経験したことのあるとても一般的な症状です。
身体的ストレス反応に関する尺度が1つで、項目数が11項目であるのに対し、心理的ストレス反応に関する尺度は、ポジティブ、ネガティブそれぞれの感情を測定するものがあり、項目数は18項目となっています。
ストレス反応は、現状を見ることができるので、ストレス項目の中でも最も重要な項目として位置づけられ、またいちばん先に見る要素とされています。これらのストレス要因に長期間さらされると、心身症、うつ病、適応障害などを引き起こすことがあります。この項目チェックされることは、ストレス要因が心と身体にどのような反応を与えてしまっているかということです。
ストレスチェックにおいて、ストレス反応の領域は、心理的、身体的両方のストレス反応を測定できるようになっているのです。
ストレス緩和要因から分かること→将来を見る
ストレス緩和要因とは、緩衝要因とのことを指します。難しいことではありません。つまり、ストレスを和らげる働きをする社会的支援を意味します。具体的には、同僚のサポート、上司のサポート、家族のサポートになります。
この項目から判断できることは、先ほど挙げた同僚、上司、家族からのサポートがどのくらい得られているかという点です。サポートが少ない職場よりも、サポートが多く得られている職場の方が、ストレスに強い職場であると言えます。
この項目では、過去のストレスの蓄積や、現状の打破などとは少し対応が変わってきます。未来を見ている部分だからです。今後このようなことが起きるかもしれないという意味をなしているので、量的負荷が仮にあるとしても、点数が低い場合にはすぐに対応する必要はありません。ただし、可能性としてチェックしておくことはもちろん大切です。
作為的な回答をしても分かるような工夫
チェック項目などを見て、実際とは違う解答を導きだすために、真実ではない解答をする場合があります。ストレスチェックでも、「高ストレス」と判定されないように、本来の回答と違う答えを入れるということも考えられます。ストレスチェックの項目には、仮にストレスチェックを受ける人が作為的な解答をしても分かる様な工夫が施されています。当たり障りのない平均的な解答は出来ないようにもなっているので、素直に解答することをおすすめします。
ストレスチェック項目の追加は可能?意味がある?
冒頭で少し触れましたが、ストレスチェックの項目は増やしても減らしても問題はありません。しかし、「職場のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」という3つの領域は必ず含まれていなければなりません。項目を独自に追加する場合の条件には「一定の科学的根拠に基づいている」があります。一定の化学的根拠に基づいているという前提で、実施者の意見の聴取や、衛生委員会等での調査審議が必要になってきます。
ストレスチェック項目は多すぎ?解答に時間がかかるのが難点
1万人を超える人を対象に行った実証によって、ストレスチェック項目は厳選されています。選び抜かれた項目にも関わらず、57項目は解答に多くの時間を要するので、ストレスチェック自体がストレスになるなどという声もないわけではありません。
しかし、きちんとした診断を求めるのであれば、必要とされている項目には解答すべきなのは言うまでもありません。また、ストレスチェックにかかる時間だけではなく、その内容にも疑問を持っている人がいます。職場の環境、そして、働き甲斐などについての質問が多いため、結果によっては、特定の人を悪者にしてしまうケースも想定されます。
ストレスチェックの義務化は何が「義務」なの?
ストレスチェックの義務化、この「義務」は企業側の義務のことを指します。つまりストレスチェックを行う体制を整えるということです。従業員がストレスチェックを受けることが義務なのではありません。最終的には企業にも働く人にもいい結果をもたらすべくして作られたストレスチェック制度ではあるのですが、例えば、うつ病患者を例にみてみましょう。
うつ病患者がストレスチェックを受けるということは、その行為自体が精神的負担になる可能性があります。希望しない人は強制的に受けさせることはないという配慮から、ストレスチェックを受けることは義務化されていないと考えられます。
目的はうつ病を発見することではありません。ストレスを自覚するということです。企業が把握すべき職場のストレスの程度をチェックし、職場環境への改善へと繋いでいくために、メンタルヘルスの不調は予防されることが期待されます。確かに従業員に対しては、義務化はされていないですが、多くの従業員が「受けよう!」と感じられる制度を整えていくこともメンタルヘルスを取り入れていく上での課題になるでしょう。
(編集:創業手帳編集部 / 監修:合同会社パラゴン|櫻澤博文)